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高松高等裁判所 昭和44年(う)147号 判決 1969年10月21日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、記録に編綴してある弁護人小松幸雄作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は、原判決の被告人に対する刑の量定が重きに過ぎて不当であると主張する。

よって記録を調査して按ずるに、被告人は、酒に酔い正常な運転を期し難い状態にありながら敢えて自動二輪車を運転し、酔いのため前方の注視を怠って道路右端(被告人からみると左端)を正しく対面歩行して来た被害者に自車を衝突させ、因って同人を死亡させるという惨事を招ねいたものであって、その過失責任はまことに重大である。被告人がその所有にかかる前記自動二輪車につき法定の自動車損害責任保険契約を締結しなかったことも、不慮の交通災害に対する平素の配慮に欠けていた証左というほかはなく、交通災害補償を含む交通事故対策が今や国民的課題となっている折柄、その罪責を軽視することはできない。

被告人は、これまで道路交通法違反で一回罰金刑に処せられたほかには格別の前科もなく、本件後は深くその非を反省悔悟して謹慎に努めており、被害弁償についても応分の努力を尽くして不十分ながら五〇万円を支払っていることが窺われるのであるが、およそ酒酔い運転による事故は、或る程度危険の発生が予測し得るのに敢えてこれを顧りみないで自動車を運転するという無謀な態度に起因するのであり、交通事犯のなかでも特にその刑責を重視しなければならないのであって、原判決が被告人を禁錮八月の実刑に処したのも決して苛酷に失するとはいえない。論旨は採るを得ない。(なお、自動車損害賠償保障法五条違反の罪((責任保険に付されていない自動車を運行の用に供した罪))においては、運転行為についてのみならず、当該自動車につき責任保険契約が締結されていなかったという事実についても、被告人の自白のほかに所謂補強証拠の存在を要するものと解すべきであるが、取締警察官作成の実況見分調書中の「当該自動二輪車には、自動車損害賠償保障法による保険標章が貼付されていなかった」旨の記載は、同法九条の三の規定の趣旨に鑑み、右にいう補強証拠となり得るものと解するのが相当である。)

よって、刑訴法三九六条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川豪 裁判官 越智伝 小林宜雄)

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